長期金利上昇局面ではバリュエーションが縮小する


今回は長期金利上昇局面と低下局面におけるS&P500のバリュエーション変化について調べてみました。

下記記事の続きなので、よろしければこちらからご覧ください。
(過去記事:長期金利上昇局面と低下局面における米国株のリターン

※今回使用するデータはすべてmultpl.comのものです。

長期金利上昇局面ではリターンが望めない

長期金利上昇局面と低下局面のS&P500の実質トータルリターン

下表は以前当ブログで計算した長期金利上昇局面と低下局面のS&P500の実質トータルリターンです。
※ここでは、実質トータルリターン=実質キャピタルゲイン(インフレ調整後S&P500の年率換算騰落率)+インカムゲイン(月次の配当利回りの平均値)として大雑把に計算しています。
(過去記事:長期金利上昇局面と低下局面における米国株のリターン


実質キャピタル
ゲイン
インカムゲイン
(平均配当利回り)
実質トータル
リターン
全期間
1871年1月〜2018年10月
2.38%4.35%6.73%
長期金利低下
1873年1月〜1900年12月
3.01%5.14%8.15%
長期金利上昇
1900年12月〜1921年1月
-4.29%5.27%0.98%
長期金利低下
1921年1月〜1941年1月
3.52%5.45%8.98%
長期金利上昇
1941年1月〜1981年9月
1.31%4.41%5.72%
長期金利低下
1981年9月〜2016年7月
5.76%2.56%8.32%

全期間の実質トータルリターンはよく言われる通り7%弱となっていますが、長期金利低下局面では8.15%〜8.98%と高かった一方で、長期金利上昇局面では0.98%〜5.72%でした。

1941年1月~1981年9月の5.76%はまずまずのリターンに見えますが、金利上昇が加速した後半20年間(1961年5月~1981年9月)では実質キャピタルゲインが-2.74%、インカムゲイン(平均配当利回り)が3.71%、実質トータルリターンが0.97%とかなり低迷しました。

大きな要因はバリュエーション

「実質トータルリターン=実質キャピタルゲイン+インカムゲイン」として考えた場合、インカムゲインはマイナスにはなりませんし、差はせいぜい2~3%程度なので、リターンを大きく左右するのはキャピタルゲインのほうです。

この実質キャピタルゲインはPERの変化と実質EPS成長率に分解できます。

実質EPS成長率は下表のように1900年12月~1921年1月を除くと年率2%前後でそれほど大きな差がないので、長期金利上昇・低下局面のリターンの差を生み出した要因として一番大きいのはバリュエーションということになります。


長期金利
(始点)
長期金利
(終点)
長期金利
(変動幅)
実質EPS
成長率
長期金利低下
1873年1月〜1900年12月
5.58%3.10%-2.48%2.30%
長期金利上昇
1900年12月〜1921年1月
3.10%5.09%1.99%-2.26%
長期金利低下
1921年1月〜1941年1月
5.09%1.95%-3.14%3.19%
長期金利上昇
1941年1月〜1981年9月
1.95%15.32%13.37%1.95%
長期金利低下
1981年9月〜2016年7月
15.32%1.50%-13.82%2.32%

長期金利上昇局面ではバリュエーションが縮小する

PERは以下の式で表すことができるため、長期金利上昇はPERの縮小(=株価下落)、長期金利低下はPERの拡大(=株価上昇)に繋がります。
PER=1/(割引率-成長率)
    =1/(長期金利+リスクプレミアム-成長率)

長期金利上昇・低下局面におけるPER・CAPEレシオの変化

先ほどの長期金利上昇・低下局面でのバリュエーション(PERとCAPEレシオ)の年率換算変化率を計算し、表にまとめてみました。
※1941年1月〜1981年9月の約40年間は金利上昇が緩やかだった前半(1941年1月〜1961年5月)と急騰した後半(1961年5月〜1981年9月)とに分けて計算しています。

長期金利
(始点)
長期金利
(終点)
長期金利
(変動幅)
PER
変化率
CAPE
変化率
長期金利低下
1873年1月〜1900年12月
5.58%3.10%-2.48%0.69%1.91%
長期金利上昇
1900年12月〜1921年1月
3.10%5.09%1.99%-2.08%-6.73%
長期金利低下
1921年1月〜1941年1月
5.09%1.95%-3.14%0.33%5.12%
長期金利上昇
1941年1月〜1981年9月
1.95%15.32%13.37%-0.63%-1.48%
長期金利上昇(前半)
1941年1月〜1961年5月
1.95%3.71%1.76%3.90%1.95%
長期金利上昇(後半)
1961年5月〜1981年9月
3.71%15.32%11.61%-4.96%-4.80%
長期金利低下
1981年9月〜2016年7月
15.32%1.50%-13.82%3.36%3.68%

バリュエーションは長期金利低下局面では拡大している一方で、上昇局面では縮小しています。

金利上昇が緩やかだった1941年1月〜1961年5月は例外的に金利上昇下でバリュエーションが拡大していますが、金利が急騰した1961年5月〜1981年9月では大幅に縮小しています。そして続く約35年間の金利低下局面(1981年9月〜2016年7月)では大幅に拡大しています。

金利低下局面ではバリュエーションが拡大、将来のリターンを先食いし、次の金利上昇局面でバリュエーションが縮小、先食いのツケを支払う、という繰り返しに見えますね。

ここでは直近の長期金利低下局面を1981年9月〜2016年7月としていますが、もしかするとまだしばらくは緩やかな金利低下が続くのかもしれません。

ただ、もう長期金利の低下余地はもうほとんどなさそうな一方で上昇余地はたっぷりあるように思えます。過去35年間のような金利低下・バリュエーション拡大の追い風は期待できませんし、今後のリターンは今までよりも控えめに見積もっておいたほうがよさそうです。

アーリーリタイアには逆風

大きく捉えると、ひとつの長期金利の上昇・低下局面はそれぞれ20~40年間も続いています。

私は「株式の実質トータルリターンは今後も長期的にみれば7%弱に収束する」と信じていますが、一人の人間の寿命の範囲内では時期によるブレがかなり大きいんじゃないかなと思います。

特にアーリーリタイアでは、長期金利上昇局面の後半から資産形成を始め、金利低下局面の追い風が吹いている間にリタイアするというのが理想的に思えますが、私の場合は真逆で金利低下局面の後半から資産形成を始め、このままでいくと金利上昇局面の逆風のなかでリタイアを模索することになりかねません。

凶悪な逆風がこないことを祈るばかりです。


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コメント

  1. 投資のど素人2019/02/18 21:21

     150年の5世代超長期に渡る期間を、20年~40年の超長期に分割し、米長期金利とS&P500の相関関係を分析された記事に圧倒されました。

     私のように、10年前後の周期の景気サイクルに対応して発生する景気後退期において、S&P500を米国債でヘッジしようとする者は、せいぜい2~5年の短期でしか、米長期金利とS&P500の相関関係を考えていませんでした。しかも、その相関関係は正負が逆転しているのを教えられました。

     もっとも、2020年±2年ごろに発生すると言われている、次の景気後退期にS&P500を米国債でヘッジしようとする者にとっては、10年前後の周期の景気サイクルに対応して発生する景気後退期の2~5年の短期間での、米長期金利とS&P500の相関関係を理解しておく必要があります。

     なので、10年前後の周期の景気サイクルに対応して発生する景気後退期の2~5年の短期間での、米長期金利とS&P500の相関関係についての解説記事もお願いします。

     Ray Dalio の "All Weather" Portfolio の stocks と bonds のポートフォリオ割合も、10年前後の周期の景気サイクルに対応して発生する景気後退期の2~5年の短期間での、米長期金利とS&P500の相関関係に基づいて計算されている、と思います。

     投資のど素人なので、誤解や誤りがあるかもしれません。誤りは指摘、修正し、正解を教えてください。

     よろしくお願いいたします。

    (参照)Ray Dalio's "All Weather" Portfolio
        http://www.theasymmetricblog.com/where-do-i-start-1/2015/9/9/ray-dalios-all-weather-portfolio



     

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    1. ご質問の内容について私は不勉強ですので、お役に立てる記事を書けるか分かりません。
      金利と株価の相関についてはこちらの記事で詳しく解説されています。

      フィナンシャル・ポインター 【輪郭】金利と株価は順相関?逆相関?
      https://www.financialpointer.com/jp/post-13450/

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  2. なかなか無い素晴らしい資料ですね。

    株式投資とは離れた事になりますが、いろんな事を考え込まされました。

    一つだけ挙げると、自分が感じたり、統計を見たりした経済的画期と
    数年ずつずれているな、と思いました。
    結局、アメリカ経済史で考えていないからでしょう。
    加えて日本は、あれこれのしがらみに従属している立ち位置から、遅れるのかもしれません。


    日本経済史で考えてのエポックというと、
    1867年 明治維新、
    1904年 日露戦争、
    1923年 関東大震災、
    1927年 金融恐慌、
    1937年 支那シナ事変(日中戦争開始)、
    1941年 日米戦争開始、
    1985年のブラックマンデーを受けて、日銀が日本国内をバブル誘導、といった感じになるかと思います。

    加えて、運の悪い時に大震災「も」来るのが日本史の特徴という嫌な気もします。
    1929年の世界恐慌の前に、金融恐慌が来ております。
    近年の相次ぐ大震災で、年間税収が飛んでしまうようなスケール感はあるのでしょうね。
    震災によるトータルの損害金額という感じでは報道もあまり見ませんが。

    日本史にアメリカの経済史を当てはめると、
    明治維新の時には南北戦争と大陸間横断鉄道開通で
    特需が終わっていたのかもしれません。

    また、第二次世界大戦と言いますが、
    1939年8月に独ソ不可侵条約が締結された段階で、英仏はドイツとの対決を覚悟、
    9月にポーランド侵攻開始ですので、
    アメリカの特需の発端は1939年、
    1941年末の真珠湾攻撃直後の大増産指示は第二特需となります。

    日本国内しか知らない日本人の感覚ではダメだな、と
    資料を拝見して思いました。

    今後としては、
    黒田日銀の方針は、安倍政権発足に伴って開始されたわけではありますが、
    FRBの方針の後を受けた金融緩和の側面も感じるので、
    FRBでさへ難儀しているのに、日銀は大丈夫でしょうかねえ。

    戦争は良くないことでしょうが、負けて良いことは無いか、と考え込んでしまいました。
    でも世界史上最大の帝国を誇った大英帝国も、権謀術数をこらして現在のざまですからね


    場違いな長文申し訳ございませんでした。

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    1. 私は歴史の知識がないのでよく分かりませんが、戦争特需は高インフレ、長期金利上昇を引き起こすので、株式リターンにとってはマイナスになるのかなという気がします。

      日銀の出口戦略はいったいどうなってしまうんでしょうね。
      日本だけでなく、世界の債務膨張も心配です。

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  3. バリュー株やグロース株ではどうなるか分かれば教えてほしいです。

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    1. この記事で使用したmultpl.comには超長期のS&P500のデータが載っているのですが、同じようなバリュー株やグロース株のデータは見つからなかったので、同様の計算をするのは難しそうです。
      私もバリュー株やグロース株、高配当株等だったらどうなるのかは興味があるので、もし今後参考になりそうなものが見つかったら記事にしますね。

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