期待リターン(算術平均リターン)と幾何平均リターン


Research Affiliatesでは各国株式の今後10年間の期待リターンを見ることができます。
 過去記事:世界各国の時系列CAPEレシオ(シラーPER)が見られるサイト

ただし、この期待リターンというのは算術平均であり、実際に10年間投資して算術平均と同じリターンが得られる可能性は低いです。
 参考:「過去のリターン平均は5%です」←新たな発見へ(ファンドの海)

実際に得られるリターンの中央値は幾何平均に等しくなり、幾何平均リターンは以下の式で求めることができます。

 幾何平均リターン ≒ 算術平均リターン - 1/2×分散(標準偏差の2乗)

いくら算術平均リターン(期待リターン)が高くても、標準偏差(ボラティリティ)が高いと幾何平均リターンは低くなってしまうということですね。

今回はResearch Affiliatesの今後10年間の実質期待トータルリターン(米ドル建て)を幾何平均にするとどうなるのかを計算してみました。

各国の実質期待トータルリターンと標準偏差

Research Affiliatesに載っている2019年8月末時点の世界各国株式の今後10年間の米ドル建て実質期待トータルリターン(算術平均リターン)と標準偏差を表にまとめてみました。表は算術平均の降順で、参考に米国長期国債、中期国債、短期国債も入れています。

算術平均標準偏差
ロシア13.10%34.80%
トルコ12.60%33.40%
ポーランド8.80%29.40%
マレーシア8.30%16.20%
韓国8.30%24.40%
スペイン8.20%24.10%
新興国7.40%21.30%
中国7.10%28.40%
英国7.00%18.30%
ブラジル6.80%30.80%
オーストラリア6.50%22.20%
イタリア6.50%24.80%
南アフリカ6.40%24.20%
メキシコ6.30%22.70%
インドネシア6.30%26.40%
スウェーデン6.00%21.80%
台湾5.90%20.20%
ドイツ5.80%22.90%
ヨーロッパ5.70%18.80%
香港5.50%21.10%
タイ5.50%22.80%
EAFE5.40%17.00%
フランス4.70%21.10%
カナダ4.60%17.30%
日本4.30%17.80%
インド3.80%26.00%
全世界3.00%15.60%
先進国2.70%15.20%
スイス2.70%17.90%
米国小型株1.40%19.10%
米国大型株0.50%14.30%
米国中期国債-0.40%3.40%
米国短期国債-0.50%1.90%
米国長期国債-1.60%11.50%

算術平均リターンのトップ10はロシア(13.10%)、トルコ(12.60%)、ポーランド(8.80%)、マレーシア(8.30%)、韓国(8.30%)、スペイン(8.20%)、新興国(7.40%)、中国(7.10%)、英国(7.00%)、ブラジル(6.80%)です。

ロシアとトルコが圧倒的ですね。

算術平均リターンと幾何平均リターン

次に幾何平均リターン = 算術平均リターン - 1/2×分散(標準偏差の2乗)を計算して表にまとめました。表は幾何平均の降順です。

算術平均標準偏差幾何平均
ロシア13.10%34.80%7.04%
トルコ12.60%33.40%7.02%
マレーシア8.30%16.20%6.99%
英国7.00%18.30%5.33%
韓国8.30%24.40%5.32%
スペイン8.20%24.10%5.30%
新興国7.40%21.30%5.13%
ポーランド8.80%29.40%4.48%
オーストラリア6.50%22.20%4.04%
EAFE5.40%17.00%3.96%
ヨーロッパ5.70%18.80%3.93%
台湾5.90%20.20%3.86%
メキシコ6.30%22.70%3.72%
スウェーデン6.00%21.80%3.62%
南アフリカ6.40%24.20%3.47%
イタリア6.50%24.80%3.42%
香港5.50%21.10%3.27%
ドイツ5.80%22.90%3.18%
カナダ4.60%17.30%3.10%
中国7.10%28.40%3.07%
タイ5.50%22.80%2.90%
インドネシア6.30%26.40%2.82%
日本4.30%17.80%2.72%
フランス4.70%21.10%2.47%
ブラジル6.80%30.80%2.06%
全世界3.00%15.60%1.78%
先進国2.70%15.20%1.54%
スイス2.70%17.90%1.10%
インド3.80%26.00%0.42%
米国小型株1.40%19.10%-0.42%
米国中期国債-0.40%3.40%-0.46%
米国短期国債-0.50%1.90%-0.52%
米国大型株0.50%14.30%-0.52%
米国長期国債-1.60%11.50%-2.26%

幾何平均リターンのトップ10はロシア(7.04%)、トルコ(7.02%)、マレーシア(6.99%)、英国(5.33%)、韓国(5.32%)、スペイン(5.30%)、新興国(5.13%)、ポーランド(4.48%)、オーストラリア(4.04%)、EAFE(3.96%)です。

高ボラティリティのロシアやトルコ、ポーランド等は幾何平均ではかなりリターンが下がっています。

算術平均と幾何平均リターンをグラフ化すると以下のようになります。
下表は算術平均リターンと幾何平均リターンの差です。低ボラティリティの米国大型株や先進国株では1%程度の差しかありませんが、高ボラティリティのロシアやトルコでは7%前後とかなり大きな差が生じています。

算術-幾何
ロシア6.06%
トルコ5.58%
ブラジル4.74%
ポーランド4.32%
中国4.03%
インドネシア3.48%
インド3.38%
イタリア3.08%
韓国2.98%
南アフリカ2.93%
スペイン2.90%
ドイツ2.62%
タイ2.60%
メキシコ2.58%
オーストラリア2.46%
スウェーデン2.38%
新興国2.27%
フランス2.23%
香港2.23%
台湾2.04%
米国小型株1.82%
ヨーロッパ1.77%
英国1.67%
スイス1.60%
日本1.58%
カナダ1.50%
EAFE1.45%
マレーシア1.31%
全世界1.22%
先進国1.16%
米国大型株1.02%
米国長期国債0.66%
米国中期国債0.06%
米国短期国債0.02%

ボラティリティと算術平均-幾何平均

ボラティリティが高くなるごとに「算術平均-幾何平均=1/2×分散(標準偏差の2乗)」がどのように変化していくのかをグラフ化すると以下のようになります。
ボラティリティ10%では算術平均-幾何平均は0.50%とかなり小さいですが、ボラティリティ15%では1.13%、ボラティリティ20%では2.00%、ボラティリティ30%では4.50%、40%では8.00%と指数関数的に大きくなっていきます。

たとえば実質期待リターンが7%でボラティリティが10%なら幾何平均リターンは6.5%ですが、ボラティリティが20%だと幾何平均は5%、 ボラティリティが40%だと幾何平均は-1%まで大幅に下がります。

日本円換算ではさらに高ボラティリティに

今までは米ドル建ての実質期待リターンで計算していましたが、日本円換算するとボラティリティはさらに高くなります。

Research Affiliatesでは通貨を米ドルだけでなく、日本円やユーロ、英ポンド、豪ドルに変更することができます。

日本円建ての実質期待リターン(算術平均)とボラティリティを基に、先ほどと同様に幾何平均を計算してみました。下表は幾何平均の降順です。


算術平均標準偏差幾何平均
マレーシア7.20%19.40%5.32%
ロシア11.90%36.70%5.17%
トルコ11.40%35.70%5.03%
韓国7.10%26.80%3.51%
新興国6.20%24.00%3.32%
スペイン7.10%27.70%3.26%
英国5.80%23.00%3.16%
ポーランド7.70%31.60%2.71%
オーストラリア5.30%25.30%2.10%
EAFE4.20%20.70%2.06%
台湾4.70%23.20%2.01%
ヨーロッパ4.60%22.90%1.98%
メキシコ5.10%25.00%1.98%
スウェーデン4.80%24.40%1.82%
南アフリカ5.20%26.10%1.79%
日本3.20%18.50%1.49%
カナダ3.50%20.10%1.48%
イタリア5.40%28.50%1.34%
香港4.40%25.40%1.17%
中国5.90%30.90%1.13%
ドイツ4.60%26.60%1.06%
タイ4.30%25.70%1.00%
インドネシア5.10%28.70%0.98%
ブラジル5.70%32.40%0.45%
フランス3.50%24.90%0.40%
全世界1.90%19.80%-0.06%
先進国1.60%19.60%-0.32%
スイス1.50%20.50%-0.60%
インド2.60%28.60%-1.49%
米国中期国債-1.60%8.70%-1.98%
米国短期国債-1.60%9.30%-2.03%
米国大型株-0.60%19.10%-2.42%
米国小型株0.30%23.70%-2.51%
米国長期国債-2.80%11.80%-3.50%

米ドル建てと比べるとボラティリティが高くなった分、幾何平均はかなり悪化しています。

ロシアやトルコ、ブラジルなど高ボラティリティ国では算術平均と幾何平均の差が非常に大きく、反対に比較的低ボラティリティで期待リターンの高いマレーシアが1位になっています。

算術平均と幾何平均をグラフ化すると以下のようになります。

まとめ

今、期待リターンの高い低CAPE・低PER国に投資しようと思うと、ロシアやトルコ、ナイジェリア、パキスタンなど高ボラティリティな国ばかりになるかと思いますが、ボラティリティが高いとその分だけ幾何平均リターンが損なわれる可能性があることを十分考えておかないといけないですね。

また、よく目にする期待リターンというのはだいたい米ドル建てになっていることが多いと思います。

日本人投資家が為替ヘッジ無しで外国株に投資する場合、為替変動でさらにボラティリティが高まり、結果として幾何平均リターンが小さくなると思っておいたほうが良さそうです。

今回、ボラティリティが幾何平均リターンをどれだけ蝕むかを改めて認識しましたが、そうすると為替ヘッジを部分的にでもしたほうが良いのかなと思えてきました。

FXで為替ヘッジは一度やってみようかなと思ったことはあるのですが、国内ネット証券では外国株を担保にFXはできないみたいなので新たに証拠金を用意する必要がありますし、FXは雑所得のため株式と損益通算できないというデメリットが致命的に思えるので選択肢から外していたんですよね。

今すぐに為替ヘッジをしようとは思っていませんが、とりあえずSBI証券では国内株式の評価額の70%を担保として差し入れてFXができるようなので、リタイアに向けて日本株比率を増やして為替ヘッジすることを検討したいと思います。
 参考:株券を担保にFX取引ができる!FX取引 株券担保サービス(SBI証券)


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