一般的に高所得国の物価水準は低所得国の物価水準よりも高くなります。
これをバラッサ・サミュエルソン効果といいます。経済学者二名(ベラ・バラッサさんとポール・サミュエルソンさん)の名前をくっつけただけらしいですが、数ある「○○効果」のなかでも特に名前がかっこいいです。
購買力平価でみると低所得国の通貨はいつも非常に割安に見えますが、これはバラッサ・サミュエルソン効果によるところが大きいと思われます。
過去記事:購買力平価で見ると新興国通貨は割安?
過去記事:【割安な新興国通貨】現地通貨建て新興国債券がそこそこ有望に思える
たとえば、下表は2019年の世界各国の一人当たりGDPとPPP(purchasing power parity:購買力平価)/実勢レートを並べたものです。並び順は一人当たりGDPの降順です。
(一人当たりGDPは世界銀行、PPPと実勢レート(いずれも対ドル)はOECDのデータです。)
横軸に一人当たりGDP、縦軸にPPP/実勢レートをプロットすると以下のようになります。
相対的に所得水準が低い国ほどPPP/実勢レートが低い(購買力平価でみると割安)になる傾向があることが分かります。
日本は購買力平価でみると若干過小評価されていますが、上図ではトレンドラインの上側に位置しており、所得水準を加味すれば逆に若干過大評価されている、とも言えそうです。
一方、2000年時点の世界各国の一人当たりGDPとPPP/実勢レートは下表のようになっていました。
先ほどと同様にグラフ化すると以下のようになります。
これも相対的に所得水準が低い国ほどPPP/実勢レートが低い(購買力平価でみると割安)になる傾向にあり、日本は一人当たりGDP、PPP/実勢レートともに最も高かったです。日本は2000年→2019年で一人当たりGDPが米国の106%(世界最高レベル)→米国の49%まで減少し、PPP/実勢レートは1.44→0.95になっています。
そして反対にこの間で最も所得水準が上がった中国は2000年→2019年で一人当たりGDPが米国の2.6%→米国の16%まで増加し、PPP/実勢レートは0.33→0.61になっています。
国力と為替レートは関係ない、という話もありますが、相対的な所得水準が上昇すればPPP/実勢レートも高く、相対的な所得水準が低下すればPPP/実勢レートも低くなる、というのはあるんじゃないかなと思います。
一人当たりGDPの推移を並べてみると、日本は1995年頃まで急成長したあとはほとんど横ばいになっています。今のところは30年近く横ばいが続いたあとでも高所得国よりも若干低い程度ですが、このまま日本の相対的な所得水準が下がっていった場合、先ほどのグラフの左下側にシフトしていく可能性もありそうな気がします。
ドル円のPPP、実勢レートと米国の一人当たりGDP÷日本の一人当たりGDPをグラフ化すると以下のようになります。
ドル円レートの長期的な行方は、単純に購買力平価だけで考えるとインフレ率の格差から下がりそうですが、日本の相対的な所得水準が過去30年と同様に低下し続けた場合は逆に上がるのではと最近考えています。
(他にも貿易黒字の円高圧力が縮小しているので過去のような円高にはならない等、様々な意見があります。)
PwCの「The World in 2050(リンク)」等では日本の長期的な一人当たりGDP成長率はほかの先進国とは遜色なかったりするので、再び成長軌道に戻るなら単純にインフレ率格差を反映して円高傾向に戻るのかもしれませんが、私は失われた30年しか経験していないので今後も低迷しそうな気がしてなりません。
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