米国株の債券に対する超過リターンは不安定


前回の記事で取り上げた論文の最後に1794~2019年の年次のインフレ率、名目株式リターン、名目債券リターンが載っていたので、それを使って米国株の債券に対する超過リターンをグラフにしてみました。

 過去記事:昔の米債券は株式並みのリターンだったらしい


まずは50年ローリングの名目リターンです。1900年頃まではほぼ債券のほうが強かったようです。株式は平均値7.59%、最小値2.99%、最大値13.18%、債券は平均値5.64%、最小値2.80%、最大値8.04%です。

インフレ率。1933年の金本位制停止&大統領令6102号による金没収、第二次世界大戦、ニクソンショックと多段式にインフレ率が上がっていっています。

実質リターン。株式は平均値6.05%、最小値3.79%、最大値8.91%、債券は平均値4.13%、最小値-0.63%、最大値7.36%で、こちらは株式のほうが安定しています。株式はジェレミー・シーゲル氏の数値より低く、債券はかなり高いです。

50年ローリングの超過リターン(株式リターン-債券リターン)はこのようになります。

これを1933年以前を金本位制、1934年以降を管理通貨制度として分けてみます。

(アメリカは1792年のCoinage Act of 1792から金銀複本位制、1873年のCoinage Act of 1873から金本位制、第一次世界大戦で金本位制を一時停止したりしていますが、ここでは一応1933年までを金本位制としています。)


金本位制下では超過リターンは非常に低く、この期間の平均値は0%です。債券よりも高リスクな株式の債券に対する超過リターンが長期間マイナスにとどまっているというのはなかなか興味深いです。


管理通貨制度下では金本位制下と比べて高水準であり、この期間の平均値は4.57%です。

各期間の名目リターンとインフレ率をまとめるとこうなります。債券は名目ではどの期間でもほぼ変わりませんが、株式はインフレ分だけ管理通貨制度下では10%超とかなり高くなっています。

実質リターンと超過リターンです。株式はどの期間でもそれなりに安定しているものの管理通貨制度のインフレ下でやや強く、債券はかなり差が大きくて金本位制のデフレ下で非常に強くなっており、超過リターン(株式リターン-債券リターン)はインフレ下では高く、デフレ下ではゼロ付近まで変動しています。

前回の記事でも書きましたが、管理通貨制度のインフレがある世界ではせいぜい名目金利4〜5%、インフレ率2〜3%、実質リターン2〜3%程度が上限なんだろうなと思います。


金本位制のデフレの世界における債券は株式並みの高リターンを生んでいた訳ですが、ピケティのr>gのグラフでもrはgにかかわらず2000年間5%前後だったので、成長がない世界でお金を貸したり不動産を貸したりして得られるリターンが5%くらいというのは自然な水準で、むしろ管理通貨制度における債券のリターンが低すぎるとも言えるのかもしれません。


また、株式益利回りから国債利回りを引いた数値を簡易的なエクイティリスクプレミアムとして、リスクプレミアムが小さくなっているので割高とか大きくなっているので割安みたいなこともよく言わますが、過去のデータを見ると債券の実質リターンにかかわらず株式の実質リターンは比較的安定しているので、国債利回りとのスプレッドはそこまで気にする必要もないのかなと思いました。

(金利上昇は株価にとって逆風ではあることは確かだと思いますが、株式益利回りと国債利回りとのスプレッドの水準自体の高低によって将来の株式のリターンが左右される訳ではなさそうという意味です。)




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コメント

  1. いつも楽しく拝読しています。
    前回、今回の記事ともに、債券は米国債長期(10年もの程度)と理解してよろしいのでしょうか?

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    1. いつもありがとうございます!
      この債券のデータには社債も含まれているようです。
      シーゲルの研究では1926年以前は実際の債券価格ではなくその時点で最も利回りが低い債券の利回りから債券の実質リターンを計算しており、社債も含んでいなかったそうなので、そこが今回の論文のデータと大きく違っている点みたいです。

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