世界各国のCAPEレシオの過去最小値


米国の景気拡大は過去最長の11年目に突入し、とうとうCAPEレシオの計算期間※から景気後退期が外れました。
※CAPEレシオは現在株価を過去10年間のインフレ調整済EPSの平均値で割ったもので、一時的な要因による利益の増減や景気循環の影響を除外して割高・割安を判断することができます。 
(過去記事:もうすぐCAPEレシオの計算期間から景気後退期が外れる

過去11回の景気拡大期の長さは平均で4年間なので、景気後退期が含まれていない現在のCAPEレシオは景気循環の影響を調整するという意味では不正確なものになりつつあるかもしれません。

そういう意味では注意が必要かもしれませんし、それでもなお米国のCAPEレシオは約30と歴史的に見てかなり高い水準にありますが、他の国に目を向けると、景気拡大末期にしてはあまり過熱感がないなという印象があります。

世界各国のCAPEレシオの過去最小値 

Research Affiliatesによると、世界各国のCAPEレシオの過去最小値は以下のようになっています。表はCAPEレシオ過去最小値の昇順で、現在値との乖離率とEPS算出開始期間も併せて載せています。
(CAPEレシオは過去10年間のインフレ調整済EPSを使うので、例えばEPS算出開始が1996年のロシアの場合、CAPEレシオは2006年以降のデータしかありません。新興国は期間が短いです。)


過去
最小値
現在
(2019年7月)
乖離率EPS算出
開始時期
ロシア4.37.4-41.9%1996
スウェーデン4.819.8-75.8%1969
米国大型株4.829.8-83.9%1871
カナダ6.020.7-71.0%1969
ヨーロッパ6.016.1-62.7%1969
英国6.015.1-60.3%1969
フランス6.121.1-71.1%1971
ブラジル6.416.5-61.2%1994
イタリア6.417.3-63.0%1984
トルコ6.67.8-15.4%1992
スペイン6.913.2-47.7%1980
スイス7.025.9-73.0%1969
先進国7.223.2-69.0%1970
オーストラリア7.719.2-59.9%1969
ドイツ7.816.6-53.0%1969
ポーランド8.011.5-30.4%1995
香港8.517.6-51.7%1972
新興国9.613.2-27.3%1995
中国9.913.6-27.2%1995
EAFE
(欧州,豪州,極東)
9.916.9-41.4%1972
インドネシア9.918.6-46.8%1992
韓国11.011.6-5.2%1995
台湾11.319.7-42.6%1995
全世界11.721.7-46.1%1995
アジア
(除く日本)
12.315.0-18.0%1995
メキシコ12.417.9-30.7%1992
タイ12.718.3-30.6%1992
南アフリカ14.518.2-20.3%1995
マレーシア15.015.4-2.6%1992
日本15.921.9-27.4%1969
インド16.022.3-28.3%1994
米国小型株17.854.1-67.1%1979

過去最小値が最も低いのはロシアの4.3(2016年1月)、次いでスウェーデンの4.8(1980年9月)、米国大型株(S&P500)の4.8(1920年12月)です。

マレーシアや韓国、トルコの現在のCAPEレシオは過去最小値とほとんど変わらない水準にあります。ロシアは現在最も低CAPEですが、過去最小値の4.3よりはかなり上です。

マレーシアは過去最小値が15.0と高めなのでまだ下がる余地はありそうに思えますが、トルコは過去最小値6.6に対して現在値7.8と非常に低いです。

出典:Research Affiliates

リーマンショックとITバブル前後のCAPEレシオ

下表は以前、リーマンショックとITバブル前後のCAPEレシオを調べたときに作ったものですが、どちらもピーク時のCAPEレシオはほとんどの国が20超、特にリーマンショック前の新興国株は30超とかなり過熱感がありました。
(過去記事:リーマンショック前後の世界各国のCAPEレシオ

CAPE
(2007年10月)
CAPE
(2009年3月)
CAPE変化率最大
ドローダウン
英国18.39.4-48.6%-63.4%
イタリア22.37.2-67.7%-70.1%
ロシア23.15.3-77.1%-79.8%
トルコ24.98.0-67.9%-74.6%
南アフリカ26.014.5-44.2%-63.4%
スペイン26.210.3-60.7%-61.6%
フランス26.810.8-59.7%-59.9%
米国大型株27.313.3-51.3%-54.6%
台湾27.612.7-54.0%-60.0%
ヨーロッパ27.99.5-65.9%-62.7%
ポーランド28.09.4-66.4%-77.4%
スイス28.413.3-53.2%-51.7%
ブラジル28.413.6-52.1%-72.5%
ドイツ28.510.9-61.8%-63.0%
韓国28.612.1-57.7%-71.4%
先進国28.711.7-59.2%-57.5%
スウェーデン28.913.1-54.7%-67.0%
全世界29.411.7-60.2%-58.1%
オーストラリア30.413.5-55.6%-65.0%
香港30.712.0-60.9%-63.0%
EAFE
(欧州,豪州,極東)
31.111.2-64.0%-60.4%
カナダ32.616.2-50.3%-60.3%
マレーシア34.816.6-52.3%-49.7%
メキシコ35.415.8-55.4%-64.4%
アジア(除く日本)37.312.6-66.2%-65.5%
新興国38.112.7-66.7%-65.3%
米国小型株45.022.7-49.6%-59.5%
インド47.016.0-66.0%-72.6%
中国47.517.2-63.8%-73.3%
日本55.919.4-65.3%-62.8%
インドネシア67.119.2-71.4%-47.3%
タイ125.913.8-89.0%-62.2%


CAPE
('00年3月)
CAPE
('02年9月)
CAPE変化率
香港22.010.4-52.7%
オーストラリア22.818.8-17.5%
英国24.713.6-44.9%
ヨーロッパ33.515.8-52.8%
欧州、豪州、極東37.218.2-51.1%
スペイン39.415.4-60.9%
先進国40.919.0-53.5%
米国大型株43.222.4-48.1%
スイス43.822.0-49.8%
米国小型株47.227.6-41.5%
イタリア50.422.1-56.2%
カナダ51.124.7-51.7%
フランス54.422.3-59.0%
ドイツ56.116.5-70.6%
日本68.257.0-16.4%
スウェーデン74.816.4-78.1%

過去2回の景気拡大末期と比べると、現在の各国のCAPEレシオは米国を除くとかなり低いです。特に新興国は割安に思えます。

リーマンショックでは低CAPE国のドローダウンが小さかったという訳でもないので、現在CAPE7台のロシアやトルコが高CAPE国よりも下落余地が小さいとは言い切れません。

しかし、CAPE30の米国株の株価が半分になってCAPE15になるのと、CAPE7台のロシアやトルコが半分になってCAPE3台になるのとだったら、後者のほうが感覚的には可能性が低そうな気がします。

金融危機が起きればバリュエーションに関係なく十把一絡げに叩き売られ、高リスクな新興国資産のほうが下落するということも普通にありそうですが…

高PERのディフェンシブ株が次の景気後退期に市場平均をアウトパフォームするのかも気になっているので、併せて注目していきたいと思っています。


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