基軸通貨国から転落する過程のイギリス株


最近、米ドルが基軸通貨の地位を失っていくのでは、という話をよく耳にするようになった気がします。

The Financial Pointerによると、レイ・ダリオは基軸通貨の変遷について以下のようにレビューしているとのことです。
オランダ・ギルダー
英国に戦争で負け、フランスの侵攻に見舞われる中で、ギルダーは急速に減価した。
英ポンド
準備通貨の地位を完全に失うまで2度の減価があり、凋落は徐々に起こった。「多くの国が政治的圧力により外貨準備としてポンドを持ち続けたが、彼らの資産は同時期の米資産に比べ著しくアンダーパフォームした。」
米国ドル
2度の急激な原価(1933年、1971年)と対金でのゆっくりとした減価(2000年以降)があった。
引用:The Financial Pointer
米ドルが今後どうなるのかは私にはよく分からないので置いておくとして、今回はイギリスが準備通貨国から転落していく過程でイギリス株がどのように推移したのかを調べてみました。

1829~2018年のイギリス優良株

下のグラフは1829~2018年のblue-chip capital gains index(名目の株価リターン)です。

出典:voxeu.org

基軸通貨が正式に米ドルに移行したのはブレトン・ウッズ協定後ですが、英ポンドの基軸通貨からの転落は実質的には第一次世界大戦後から始まっていました。

これを見る限りではむしろ基軸通貨国としての地位が維持されている間は横ばい、転落後に上昇が始まったかのように思ってしまいますが、これは前半100年間はインフレ率が非常に低く、またトータルリターンのほとんどが配当だったためです。

これはS&P500でも似たような動きになっていますね。

出典:multpl.com

S&P500の配当性向は以下のように長期にわたって右肩下がりになっています。最近は40%前後ですが、利益のほとんどを配当していた時期もあったんですよね。
 過去記事:S&P500の配当性向推移、EPS成長率とCAPEレシオについて
名目の株価だけを見ていてはよく分からないのでインフレ調整後のトータルリターンを調べてみました。

世界各国の株式の実質トータルリターン

1899年と2017年のグローバル株式のシェアを見てみると、米国が15%→51.3%と3倍以上に拡大した一方で、イギリスは25%→6.1%と大幅に縮小しました。

出典:Credit Suisse

イギリスのプレゼンスは大幅に縮小しましたが、イギリス株のリターンはそれほど悪いものではありません。

これはシーゲル本にも載っているので目新しいものではありませんが、下図は1900年〜2017年の世界各国の株式、長期国債、短期国債の実質トータルリターンです。

出典:Credit Suisse

イギリス株のリターンは米国株よりは低いですが、世界各国のなかでは比較的高い方です。また、長期国債は米国>イギリスですが、短期国債はイギリス>米国となっています。

下表は各国の株式リターンを特定の期間で区切ったものです。

出典:Credit Suisse

イギリスが衰退するきっかけとなった第一次世界大戦中は全世界が-31%、米国が-18%に対してイギリスが-36%と確かにアンダーパフォームしています。

一方、第一次世界大戦後の回復期には米国376%>イギリス234%>世界168%となっています。

第二次世界大戦中はイギリス34%>米国22%>世界-12%、第二次世界大戦後は米国430%>世界395%>イギリス212%です。

また、実質リターンのマイナスが最も長かった期間は米国が1905年〜1920年の18年間で-8%に対して、イギリスは1900年〜1921年の22年間で-4%です。

イギリス株は米国株には劣後していますが、基軸通貨国から転落する過程としてはそれほど悪くはないように思えます。

個人的には少なくとも私が生きている間は米国の覇権は揺るがないのではと思っていますが、仮に覇権を失ったとしても米国株が優れた投資対象であることに変わりはないんじゃないかなという気がします。

実質金利と株式・国債の実質リターンの関係

今回の記事の内容とはあまり関係がありませんが、面白いグラフがあったのでご紹介します。

出典:Credit Suisse

実質金利が低くなるほどその後5年間の株式・国債のリターンが低くなり、実質金利-11%では株式が-5.5%、国債が-11%となっています。

低金利は資産価格を押し上げますが、これは今後の金利低下余地が少ないということでもあります。

また、低金利は期待経済成長率が低い、つまり将来の企業利益成長率が低くなるということなので、これは理屈的にも正しいように思えますが、5年間という期間でこれだけ綺麗な結果になるんだなと意外に思いました。
(感覚的には低金利は短期的には株式にプラス、長期的にはマイナスなので、5年間よりもう少し長い期間でこういう結果になるようなイメージがありました。)

今は世界的に実質金利が非常に低いので今後のリターンはあまり望めないかもしれませんね。


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