パウエル議長はQE(量的緩和)の復活と捉えるべきではない、と強調しているそうですが、マーケットは"QEではない"バランスシート拡大を好感して一旦は株価が上昇したようです。
(ちなみにFRBのバランスシートは下グラフの通り、先月から既に拡大に転じています。)
ところで、QEは長期金利低下、QT(量的引き締め)は長期金利上昇を引き起こすはずですが、過去3回のQE期間と過去1回のQT期間では逆の結果になっているんですよね。
今回は過去のQE/QT期間中に長期金利がどのように動いたのかを期間ごとに区切って確かめてみました。
※米長期金利(10年国債利回り)とFRBのバランスシート(WALCL)はFREDのデータです。なお、QE1~QE3の期間は「中央銀行のバランス・シート政策と課題(日本総研)」に載っていたものを使いました。
QE1:2008年12月5日〜2010年3月31日
まず最初にQE1(2008年12月5日〜2010年3月31日)です。バランスシートは約2.1兆ドル→約2.3兆ドルに拡大し、長期金利は2.67%→3.84%に上昇しました。
QE2:2010年11月12日〜2011年6月30日
QE2(2010年11月12日〜2011年6月30日)は以下の通りです。バランスシートは約2.3兆ドル→約2.9兆ドルに拡大し、長期金利は2.76%→3.18%に上昇しました。
QE3:2012年9月14日〜2014年10月31日
QE3(2012年9月14日〜2014年10月31日)は以下の通りです。バランスシートは約2.8兆ドル→約4.5兆ドルに拡大し、長期金利は1.88%→2.35%に上昇しました。
QE1~QE3のいずれも長期金利は前半に上昇、後半に低下、QE終了直前に再度上昇に転じるという風な共通点があるように見えます。
QT:2017年10月〜2019年7月末
QT(2017年10月〜2019年7月末)は以下のようになっています。バランスシートは約4.5兆ドル→約3.8兆ドルに縮小し、長期金利は2.34%→2.02%に低下しました。
こちらは記憶に新しいですが、長期金利は前半で大きく上昇したあと、2018年11月に天井をつけてから急落しています。
まとめ
まとめると以下のようになります。直感に反してQEで長期金利上昇、QTで長期金利低下という結果になっています。
(実際にはQEは長期金利低下、QTは長期金利上昇を引き起こします。)
もう一度、最初に貼った長期金利とFRBバランスシートの長期推移を見てみると、過去3回のQEでは約半年前から金利急落、過去1回のQTでは約1年前から金利急騰が起こっていることが分かります。
マーケットが約半年前からQEを織り込んで金利低下/約1年前からQTを織り込んで金利上昇が事前に起きてしまっているために、実際にQE/QTが始まったときには"Buy the rumor, Sell the fact./ Sell the rumor, Buy the fact."でそれぞれ反対の動きになるということなんでしょうね。
もし今からQEが再開となったとしても、長期金利は既に昨年11月のピーク(3.24%)から今年9月のボトム(1.47%)まで1.77%ポイントも低下しているので、次のQE期間中は過去3回と同様に長期金利上昇で終わるんじゃないかなと思っています。
たとえば、QE再開による長期金利低下を見越して長期国債に投資する、といった戦略は悪手になりそうな気がしますね。
また、長期金利上昇は割引率(長期金利+株式リスクプレミアム)の上昇を通じてバリュエーションを低下させるため、株価にとっても逆風です。特により将来の成長を織り込んでいる高バリュエーションのグロース株ほど金利上昇に対して脆弱だと思われます。
過去記事:長期金利上昇局面と低下局面における米国株のリターン
過去記事:長期金利上昇局面ではバリュエーションが縮小する
過去記事:無リスク金利上昇によるPERの変化
ちなみにジェフリー・ガンドラック氏も米長期金利の底入れとQE再開を予想しているようです。ガンドラック氏はずっと前から長期金利上昇を予想している気がしますが・・・
参考:年内の米長期金利低下は終わった:ジェフリー・ガンドラック(フィナンシャル・ポインター)
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