※各国の株価データはMSCIの米ドル建てグロス・リターン、インフレ率はOECDのデータを使用しました。
調べた国はメキシコ、ブラジル、ロシア、トルコ、インドネシアの5カ国です。
メキシコ
まずはメキシコです。左軸がMSCIメキシコ、右軸がインフレ率で、期間は1987年12月末~2020年3月です。2000年以降は比較的低インフレが続いているので1999年末までの期間にすると以下のようになります。
1987~1994年は200%近い高インフレが沈静化していくにつれて株価も右肩上がりとなっており、7年弱で米ドル建てグロスリターン指数は約22倍と凄まじいパフォーマンスを記録しています。
(これはインフレが低下していく局面なので1987年以前のインフレ上昇局面のデータがあれば良かったのですが…)
Wikipediaによると1992年にNAFTA(北米自由貿易協定)が調印され、アメリカからメキシコへの投資ブームが起こったそうですが、1994年2月に先住民による武装反乱が発生、3月には大統領候補者が暗殺されたことを切っ掛けにメキシコペソが暴落し、為替介入に失敗して変動相場制へと移行、インフレ急上昇となったようです。
このとき、米ドル建てグロスリターン指数は僅か5ヶ月(1994年9月→1995年2月)で-63.4%と急落しています。
2000年以降では以下のようになっています。
ブラジル
次はブラジルです。左軸がMSCIブラジル、右軸がインフレ率で、期間は1987年12月末~2020年3月です。これも1999年末までの期間にすると以下のようになります。
とんでもないインフレ率ですね…
Wikipediaによると「1986年から1994年までの8年間に、2兆7500億分の1のハイパーインフレーションが生じた。ブラジル政府は、1993年12月に「レアルプラン」を発表し、ドルペッグの通貨レアルの導入を1994年7月に行いインフレを終息させた」そうです。
米ドル建てグロスリターン指数は1989年4月→1990年3月で-74.6%になっていますが、超高インフレ下でも長期的には右肩上がりです。
1992~1994年のインフレ上昇局面では大きく下落することもなく株価も上昇しています。そういえばジェレミー・シーゲル著「株式投資の未来」でも、「高成長の中国よりも低成長のブラジルのほうがPERが低かったのでリターンが高かった」みたいな話がありましたが、起点の1987年末頃はかなり安かったんでしょうか。
ここだけを見るとインフレはあまり関係なさそうにも思えますが、2000年以降ではインフレ上昇局面で株価下落、インフレ下落局面で株価上昇となっている時期が多いです。
ロシア
次はロシアです。左軸がMSCIロシア、右軸がインフレ率で、期間は1994年12月末~2020年3月です。1994年12月~1999年12月では以下のようになります。
ソ連崩壊後はハイパーインフレが起きましたが、株価データがある1994年以降ではあまり崩れておらず、インフレが鎮静化するにつれて米ドル建てグロスリターン指数は3年ほどで4倍になっています。
その後、1998年のロシア通貨危機で僅か1年間で-91.7%と大暴落しています。
2000年以降ではやはりインフレ上昇局面で株価下落、インフレ下落局面で株価上昇となっている時期が多いです。
トルコ
次はトルコです。左軸がMSCIトルコ、右軸がインフレ率で、期間は1987年12月末~2020年3月です。高インフレ期と比較的インフレが落ち着いた2003年以降とで分けてみました。
まずは1987年末~2002年末の高インフレ期です。
この間の平均インフレ率は75%ととんでもなく高いです。
株価のボラティリティも非常に激しいですが、株価が大きく落ち込んだ2002年12月末までの15年間の米ドル建てグロスリターンは年率4.87%です。
(調子が良かったところを切り取ると、1987年末~2000年4月末では年率20.7%とかなり高いです。ちなみに同時期のVFINX(Vanguard 500 Index Fund)は年率18.90%です。)
インフレがある程度落ち着いた2003年以降では以下のようになっています。
インドネシア
最後はインドネシアです。左軸がMSCIインドネシア、右軸がインフレ率で、期間は1987年12月末~2020年3月です。インフレが急騰したアジア通貨危機時(1998年前後)を切り取ってみます。
今まで見てきた他の国と比べると全然大したインフレではないように錯覚しまいますが、米ドル建てグロスリターン指数は19カ月で-92.7%と大暴落しています。
2000年以降では以下のようになっています。
まとめ
だいたいはインフレ上昇は(現地通貨建てではプラスだとしても)ドル建て株価にとってマイナスで、高インフレが鎮静化していく過程でリターンが良くなっていることが多いように思えます。ですが、1992年~1994年のブラジルはインフレ率が5,000%近くまで急騰していくなかでドル建て株価も大きく上昇していますし、1987年~2000年前半のトルコも数十%の高インフレが常態化しているなかでそれなりに上がっています。
たとえば米国の場合は下表のように実質ベースでプラスのリターンが得られるのはインフレ率6%までで、基本的には低インフレ下のほうがパフォーマンスが良いです。
過去記事:インフレヘッジとしては株式や短期債よりもゴールドが有効
これをそのまま新興国に当てはめると多くの国は高インフレなので投資できなくなってしまいますね。
高インフレの新興国への投資が特にリスキーなのは確かだとは思いますが、かつてのブラジルやトルコのように高インフレ下でも米ドル建てで高いパフォーマンスをあげている場合もあるので、もともとインフレ率が高い国では問題ない場合もあるのかもしれません。
たとえば私が投資しているナイジェリアはPER3台と非常に低PERですが、一方で10%超の高インフレが常態化しています。3月は12.2%ですが、通貨ナイラの下落と輸入品不足のため今後は更にインフレ上昇が見込まれています。
(ジェトロによると、ナイジェリアでは外貨準備減少により国内への外貨供給が制限されているようで、「輸入業者は銀行窓口で輸入代金決済のための外貨建てL/C(信用状)が開設できなくなっている」んだそうです。)
出典:Trading Economics |
アジア通貨危機時のインドネシアのように急激にインフレが急騰する場合にはたぶんドル建て株価も崩壊するんだろうなと思いますが、ナイジェリア株(ドル建て)は既に2013年の高値から8割以上下がっており、悪材料を踏まえても割安なんじゃないかなと思っています。
過去記事:NGE(グローバルX MSCIナイジェリアETF)、2013年の高値から88%下落
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