各国が大規模な金融&財政拡大に動いているので、ゴールドが大幅上昇するのではないか、という話を最近よく耳にします。
私は株式100%派なのでゴールドETFを買うつもりはありませんし、金鉱株もあまり好きではないのですが、自社では鉱山を採掘しない貴金属ロイヤリティ・ストリーミング会社には興味を持っています。
貴金属ロイヤリティ・ストリーミング会社は自社では鉱山を運営せず、鉱山会社に開発資金を提供する代わりに、鉱山から産出する貴金属の一部を受け取るという事業を行っています。
鉱山会社の資金調達には負債と新株発行のほかにポートフォリオの最適化(資産売却、ロイヤリティ、ストリーミング)という手法があり、ロイヤリティとストリーミングには以下の違いがあるそうです。
「ロイヤルティ」は、資産収入の特定割合を売却して資金を得る方法だが、生産鉱物全種類の売上全体に対して一律の割合で売却するため、一次金属の販売もそのうちに含まれ、鉱山会社にとっては制約となる。一方で「ストリーミング」は、一資産の単一金属の販売割合に応じて資金を調達できるうえ、非中核鉱物を対象とするため、一次金属生産に係るコントロールはひき続き鉱山会社が掌握できる。このことからストリーミングは鉱業資金調達の注目を集めるようになり、現在ではロイヤルティに比べても優勢で、資本の9割を占める事例もあるほどである。
引用:需要の下降局面にある鉱業界の現状と対策(2)(JOGMEC)
米国上場の貴金属ロイヤリティ・ストリーミング会社
貴金属ロイヤリティ・ストリーミング会社は自社で採掘する訳ではないので、従業員数は非常に少ないです。下表は米国上場の貴金属ロイヤリティ・ストリーミング会社と大手金鉱会社(NEM、GOLD)を比べたものです。(従業員一人当たりの時価総額はGAFAMよりも大きいです。)
各銘柄のバリュエーション指標をGDX(ヴァンエック・ベクトル金鉱株ETF)、GDXJ(ヴァンエック・ベクトル中小型金鉱株ETF)と比べてみました。予想PERの昇順に並べていますが、GDXやGDXJと比べるとかなり高PERとなっています。
(ORとMMXは10年分のデータがないので除外しています。)
出典:Portfolio Visualizer |
金鉱株と比べるとパフォーマンスは良いですが、意外とボラティリティは高いです。
出典:Portfolio Visualizer |
今回はこのうち、SBI証券で取扱いのあるFNV、RGLD、WPMについて少し調べてみました。
FNV(フランコ・ネバダ)
まずはFNV(フランコ・ネバダ)です。カナダの会社で、貴金属ロイヤリティ・ストリーミング会社としては世界最大規模です。過去10年の業績推移は以下の通りです。
出典:Franco-Nevada Corporation |
アセットの内訳は生産中が111、開発中が34、探査中が229です。
出典:Franco-Nevada Corporation |
強気相場でも弱気相場でもゴールドや金鉱株ETFをアウトパフォームしているそうです。
出典:Franco-Nevada Corporation |
ただし、過去と比べるとPERが高くなってきている点が気になります。コモディティ株なのでPERはあまり参考にならないとは思いますが。
出典:Zacks |
RGLD(ロイヤル・ゴールド)
次はRGLD(ロイヤル・ゴールド) です。先ほどの表のなかでは唯一の米国企業です。過去10年の業績推移は以下の通りです。
2019年の売上高の内訳はゴールドが78%、シルバーが9%、銅が9%、その他が4%です。FNVと違ってほとんどがゴールドですね。
出典:Royal Gold |
ちなみに売上高のうち、ストリーミングが72%、ロイヤリティが28%となっています。
出典:Royal Gold |
2020年3月31日時点の187のアセットの内訳は、生産中が42、開発中が16、評価中が48、探査中が81です。
RGLDは昔は全然ゴールド価格と違う動きをしていたので何故だろうかと思って調べてみると、創業時(1981年)は石油・ガスの探査・生産会社だったそうです。石油価格下落をきっかけにゴールドに専念し、1987年から現在の業態になったようです。
1994年1月〜2020年3月のパフォーマンスをゴールドと比較してみました。ゴールド価格が年率5.7%に対して、RGLDは年率10.1%です。
過去のPER推移は以下の通りです。
出典:Zacks |
WPM(ウィートン・プレシャス・メタルズ)
最後はWPM(ウィートン・プレシャス・メタルズ)です。 これもカナダの会社です。過去10年の業績推移は以下の通りです。
2019年の売上高の内訳はゴールドが63%、シルバーが33%、パラジウムが4%となっており、100%が貴金属です。ちなみにWPMは昔はシルバーに特化した会社だったようで、社名もシルバー・ウィートンだったそうです。
出典:Wheaton Precious Metals |
過去のPER推移は以下の通りです。
出典:Zacks |
銀鉱株
金銀比価でみるとシルバーは歴史的な安値圏にあるので、銀鉱株にも少し興味を持っています。過去記事:金銀比価とシルバー版オールシーズンズ・ポートフォリオ
なのですが、銀鉱株ETFのSIL(グローバルXシルバー・マイナーズETF)を見てみると、組入首位がWPM(ウィートン・プレシャス・メタルズ)で約3割を占めているんですよね。WPMは売上高に占めるシルバー比率は3割程度です。
銀鉱株というと売上高のほとんどがシルバーなのかなと思いがちですが、AG(ファースト・マジェスティック・シルバー)のプレゼンテーション資料によるとシルバー比率が半分以下の企業も多く、最もシルバー比率が高いAGでも63%となっています。銀山単独を運営するのは厳しいんでしょうね。
(ちなみにシルバー比率59%のEndeavour Silverはトロント株式取引所のみ、53%のSilvercorp Metalsは米国上場していますが、SBI証券では取扱いがありません。)
出典:First Majestic Silver |
AG(ファースト・マジェスティック・シルバー)は以下のように最近は赤字が続いています。銀鉱株として覚えやすいティッカーです。
下表はAGのAISC(All-in sustaining cost:鉱山全体のライフサイクルコストを包含した採掘コスト)です。2019年は$12.64で、2020年は $13.37~$15.46との予想です。
出典:First Majestic Silver |
最近のシルバー価格は以下のように推移しています。
FNV、RGLD、WPM、AGを少しだけ買ってみたい
私はレイ・ダリオの"Cash is Trash"シナリオを予想しているので、ヘッジとして貴金属ロイヤリティ・ストリーミング大手3銘柄(FNV、RGLD、WPM)とシルバー比率が高い銀鉱株AGを少しだけ買ってみたいなと思っています。なお、私は超長期的には共同幻想が薄れて宝飾品需要が縮小していってゴールドの価値が保たれなくなるのではと勝手に妄想しています。少なくとも私が生きている間は変わらないと思いますが…
過去記事:ミレニアル世代のジュエリー離れとゴールドのバブル
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こんにちは。
返信削除金鉱山や油井は日本の領土内には無いと言っても良いので、日本人にはなじみのない契約や、契約の見直しなどの業界慣行を知らないリスクはあると思います。
あるいは、ETFや先物に使われていた場合、コロナ禍で、原油先物のマイナス価格のような想定を超えた事態も発生したので、貴金属鉱山も、感染対策で採掘停止などもあるやも。
目下のところ、ストリーミング契約の会社が好調なのは、ゴールド価格が契約時点から急激に上昇して、濡れ手に粟だからだと思いますが、
ストリーミング契約相手の鉱山会社が操業停止するリスクは小さくないかもしれませんね。
それよりも、世界中で、雇用を守れと雇用主に圧力がかかっているので、
代わりに無配化の動きが進むような気がします。
配当重視の投資方針の場合、かつての高配当株が減配(リスク)で、無配転落かつ株価下落もありかと心配してます。
とにかく、新型コロナのワクチンはすぐにはできませんが、症状に、「人が作ったような」不思議なものがあるといろいろ臨床現場から報告があるので、
収束時期や、その後の社会変化が読み切れませんね。
収束といっても、今回はほぼ全員感染までいく不安があります。
こんにちは。
削除鉱山は既に閉鎖されているところを再開するかどうかという局面ですね。
少し前にパンデミックでゴールド現物取引ができなくなって先物との価格差が拡大したりしていましたが、今はとりあえず落ち着きを取り戻している感じなのかなと思います。
配当が維持されるかどうかはビジネスモデルがコロナの影響をどれだけ受けるかによるので、今まで以上に銘柄選択が重要になりそうですね。