過去記事:配当にかかる税率は株価に織り込まれているのだろうか
過去記事:米国株の配当課税について
詳しくは上記記事で説明していますが、投資家は期待リターンを以下のように認識していると考えているためです。
※PER変化は無視しています。
- 期待リターン=(1-配当税率)×配当利回り+(1-キャピタルゲイン税率)×キャピタルゲイン
株主還元は配当税率のほうが低い国では配当、キャピタルゲイン税率のほうが低い国では自社株買いが有利になるはずなので、今回は各国の配当課税とキャピタルゲイン課税を調べてみました。
OECD各国の配当課税とキャピタルゲイン課税
下表はOECD各国の配当とキャピタルゲインにかかる最高限界税率(配当は2015年、キャピタルゲインは2018年時点)です。差は「最高限界配当税率-最高限界キャピタルゲイン税率」。日本や米国等どちらも同じという国も多いですが、多くの国では配当よりもキャピタルゲインにかかる税率のほうが低いようです。
配当の税率のほうが低いのはエストニア、ギリシャ、フィンランド、スペインのみです。
特にスイスやオランダはキャピタルゲインが非課税のようなので、これらの国は株主還元としては配当よりも自社株買いをしたほうが断然良いはずです。
スイス・オランダ大企業の配当利回りと自社株買い利回り比較
ですが、実際のスイスとオランダの大企業を見てみると、ネスレ、ロシュ、ノバルティス、ハイネケン、ユニリーバ(英蘭)、ロイヤル・ダッチ・シェル(英蘭)等は自社株買いよりも配当のほうが多いです。出典:Morningstar |
出典:Morningstar |
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オランダ株ではASMLホールディング、フィリップスなどは自社株買い>配当となっていますが、V(ビザ)やMA(マスターカード)みたいにもっと大胆に自社株買いを増やしたほうが良さそうに思えます。
出典:Morningstar |
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機関投資家や海外投資家はどういう税制なのか知らないので何とも言えませんが、少なくとも国内の個人投資家にとっては明らかに配当よりも自社株買いのほうが有利だと思うので不思議ですね。
配当を好む個人投資家が多いんでしょうか。
私も配当は好きですが、キャピタルゲイン税率が0%なら株主還元はすべて自社株買いにした上で必要な分だけ適宜売却して使うほうが良いと思います。
もしかすると自社株買いに関する規制があったりするのかもしれませんが…
日本人の高配当イギリス株投資は有利?
イギリス株は特に自社株買いよりも配当というイメージですが、最高限界税率はキャピタルゲイン(28.0%)よりも配当(30.6%)のほうがやや高くなっています。一方、日本の個人投資家は申告分離課税では20.315%、低所得者(課税所得195万円以下)は「所得税は総合課税、住民税は申告不要」という課税方式を選ぶことで10%(所得税5%+住民税5%)となります。
(アメリカ株は現地源泉税率が10%ですが、イギリス株は非課税です。)
イギリス株の配当にかかる税率はイギリス人個人投資家>日本人個人投資家なんですね。
(イギリスは最高限界税率だけしか分からないので低所得者はどうか分かりませんが。)
以前、「平均的な株主と比べて配当にかかる税負担が軽い低所得者にとっては、高配当株(トータルリターンに占める配当の割合が大きい)のほうが実質ベースでは相対的に高リターンが期待できるのでは」という記事を書いたのですが、同じ理由で日本人(特に低所得者)の高配当イギリス株投資は割と有利なんじゃないかなと思います。
過去記事:高配当株投資は低所得者にとっては有利に思える
と、ここまで書いてイギリスにはNISAのモデルとなったISA(Individual Savings Account)があることを思い出しました。
下記記事によると、ISAは年間拠出限度額が11,520ポンド(2013-2014課税年度)、運用期間は恒久化されており、また配当再投資は拠出限度額には含まれないそうです。この制度があれば一般の個人投資家はほぼ非課税で配当を受け取れると思うので高配当が人気なのも分かりますね。
参考:イギリスISAとの比較から学ぶNISAの制度の問題点
NISAもISAみたいに運用期間恒久化とか非課税枠を使わずに配当再投資ができるようになって欲しいです。
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