成長の罠よりも平均回帰バイアスに気をつけたい


The Financial Pointerにアスワス・ダモダラン教授の面白い発言が載っていました。
ダモダラン教授は、旧来のやり方が通用しなくなった理由を解説する。
「ファイナンスの最大の問題の1つは、それが主に20世紀後半の米国で発展した点だ。
20世紀後半の米経済は、歴史上最も安定した中央回帰の経済だ。
伝統的な昔のバリュー株といえば、低PER株。
これがうまくいったのは、低PER株が中央回帰し儲かったためだ。」
引用:The Financial Pointer
私には株式投資を始める以前から「物事には本来落ち着くべき水準があって、長期的にはそこへ向かって収斂していく」みたいな感覚に馴染みがあったので、直感的には平均回帰という概念はとても受け入れやすいものなのですが、これは最近はあまりうまくいっていません。

過去はCAPEレシオが低いほどその後の10~15年間のリターンが高くなる傾向にありましたが、最近では高CAPEの米国が低CAPE国をアウトパフォームしています。私はポートフォリオの30%程度を低CAPE投資に割いていますが、今のところは足を引っ張っています。
 過去記事:投資方針(2019年9月時点)
 過去記事:CAPEレシオが低い国への投資は米国株をアウトパフォーム

出典:StarCapital AG

私が低CAPE戦略として投資しているGVAL(カンブリア・グローバル・バリューETF)は2014年4月の設定以来VTを大幅にアンダーパフォームしており、そのためか最近アクティブ運用に切り替えられたりしています。
 過去記事:GVAL(カンブリア・グローバル・バリューETF)、アクティブ運用に切り替え

出典:Portfolio Visualizer

デジタルへのシフトは恒久的?

また、ジェレミー・シーゲル教授もデジタルへのシフトは恒久的であるとして、大手ハイテク株に強気だと発言したそうです。(記事は無料で読めないので中身は分かりませんが。)
 参考:Jeremy Siegel is bullish on Big Tech stocks, says the shift toward digital is ‘permanent’(CNBC)

シーゲル教授は著書「株式投資の未来」で、成熟企業スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー(現エクソン・モービル)と高成長企業IBMでは前者のほうがトータルリターンが高かったことを例にとり、高成長株は投資家の期待が高すぎるためにリターンが悪くなりがちであることを「成長の罠」と呼びました。

高成長株でも投資家の期待が高すぎればリターンは低くなり、反対に低成長株でも投資家の期待が低すぎれば高いリターンが得られます。
(どちらも期待通りの成長率になれば高成長株も低成長株も同じになります。)

20世紀後半までは高成長株は楽観的すぎる成長率が織り込まれている一方で、低成長株は悲観的になりがちな傾向だったので低PER株は高PER株をアウトパフォームできたんだと思いますが、今はむしろ低PER株は衰退が十分に織り込まれず割高で、高PER株は高成長が十分に織り込まれず割安なのかもしれません。

オールドエコノミーからニューエコノミーへのシフトはまだ始まったばかりで、ニューエコノミー銘柄が長期にわたってGDP成長率を上回る高成長を続け、反対にオールドエコノミー銘柄はGDP成長率を下回り続ける可能性もありそうです。奪う側と奪われる側の関係は政府の規制などが無ければ当面は変わらなさそうな気がします。

長期リターンが高かったコーポレート・エルドラド(いわゆるシーゲル銘柄)も、フィリップモリス以外はABT(アボット・ラボラトリーズ)、BMY(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)、PFE(ファイザー)、KO(コカ・コーラ)など市場平均よりも高PERな銘柄が多いですし、次世代のシーゲル銘柄はMSFT(マイクロソフト)やGOOGL(アルファベット)みたいな大手ハイテク株になるのかもしれません。

かつてのタバコ株のように倒産すると思われるくらい叩き売られた銘柄をナンピン買いして超高リターンを得るのは常人にはなかなか厳しそうですし、結局のところは長期的な成長が見込めるものに投資するのが一番良さそうに思えます。
 過去記事:タバコ株(MO、BTI、PM)の配当利回り・PERの長期推移

低CAPE投資は好きなので今のところ大きく投資方針を変えるつもりはありませんが、平均回帰バイアスに囚われすぎないように気をつけていきたいと思っています。


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