トータルリターンベースのCAPEレシオ「alternative version of CAPE」について


米国では株主還元として、配当よりも自社株買いを重視する企業が多くなっています。

利益の多くを配当の形で還元していた昔と比べると、最近のEPS成長率は自社株買いの分だけ高くなっているはずです。

CAPEレシオは現在株価を過去10年間のインフレ調整後EPSの平均値で割って計算するため、最近は自社株買いでEPS成長率が高まった分だけ高CAPEになっていると思われます。
 過去記事:S&P500の配当性向推移、EPS成長率とCAPEレシオについて

alternative version of CAPE(TR CAPE)

ロバート・シラー教授のサイト(ONLINE DATA ROBERT SHILLER)にはこの問題を解決するためにトータルリターンベースで計算した「alternative version of CAPE」という代替CAPEレシオが載っています。

「alternative version of CAPE(以下TR CAPE)」と通常のCAPEレシオ(以下CAPE)と比較すると以下のようになります。なお、TR CAPEのデータは2018年9月までしかありません。
 過去記事:世界各国のCAPEレシオ(シラーPER)が見られる3サイト
TR CAPE/CAPE比率は1950年頃までは120%〜140%程度で推移していましたが、それ以降は低下しており現在は110%未満になっています。

パーセンタイル別のCAPE・TR CAPEレシオは以下のようになっています。
2018年9月時点ではCAPEが33.18、TR CAPEが36.15なので、CAPEは97.64パーセンタイル、TR CAPEは97.04パーセンタイルに位置しているということになります。

TR CAPEで見ても割高であることに違いはありませんね。

CAPE・TR CAPEレシオとその後10年間のリターン

次に、CAPE・TR CAPEレシオとその後10年間の実質トータルリターンの関係について調べてみました。

通常のCAPEレシオについては下記記事で作成しましたが、今回のほうが期間がより長くなっています。
 過去記事:世界各国のCAPEレシオとその後10年間の実質トータルリターン

CAPEレシオはONLINE DATA ROBERT SHILLER、トータルリターン指数(ドル建て)はMSCI、CPIはFREDのデータを使っています。
 過去記事:MSCI指数データのダウンロード方法

CAPEレシオ

TR CAPE

CAPE・TR CAPEレシオごとのリターンの平均値

CAPE・TR CAPEレシオごとの、その後10年の実質トータルリターンの平均値をグラフにまとめました。

CAPE・TR CAPEレシオごとのリターンの最小値

実質トータルリターンの最小値は以下の通りです。
1970代はCAPE15前後でその後10年のリターンがマイナスということもあったようです。
(1960~1980年頃は金利・インフレ上昇が特に激しかった時期でした。PER=1/(割引率-成長率)=1/(長期金利+リスクプレミアム-成長率)なので、金利が上昇するとPERが縮小します。)
 過去記事:長期金利上昇局面と低下局面における米国株のリターン
 過去記事:長期金利上昇局面ではバリュエーションが縮小する

リターンを求める一次方程式

散布図からリターンを求める一次方程式を作ってみました。

CAPEレシオ

まずは通常のCAPEレシオで散布図(横軸にCAPEレシオ、縦軸にその後10年間の実質トータルリターン)を作ります。
リターンを求める一次方程式は下式になります。
(一次方程式が適切なのかは分かりませんが…)
  • 実質トータルリターン = -0.00354 × CAPE + 0.134
2018年9月末時点の33.18を代入すると、
  • 実質トータルリターン = -0.00354 × 33.18 + 0.134 = 1.7%
となります。

2019年8月末現在のCAPEレシオ29.2では
  • 実質トータルリターン = -0.00354 × 29.2 + 0.134 = 3.1%
となります。

TR CAPEレシオ

TR CAPEについても同様に散布図を作りました。
一次方程式は下式の通りです。
  • 実質トータルリターン = -0.00333 × TR CAPE + 0.139
2018年9月末時点の36.15を代入すると、
  • 実質トータルリターン = -0.00333 × 36.15 + 0.139 = 1.9%
となります。

2019年8月末のTR CAPEは分かりませんが、CAPEの110%とすると、
  • 実質トータルリターン = -0.00333 × 29.2 × 110% + 0.139 = 3.2%
となります。

TR CAPEのほうが僅かに高くはなりますが、ほぼ変わらないですね。


ちなみにResearch Affiliatesでは2019年8月末時点の米国大型株の実質期待リターンが0.7%(配当利回り2.0%+成長率1.2%-バリュエーション変化率2.5%)となっています。こちらのほうがやや悲観的です。
 過去記事:世界各国の時系列CAPEレシオ(シラーPER)が見られるサイト

出典:Research Affiliates

また、現在のドル円は購買力平価でみるとかなりのドル高円安水準にあります。

今後10年間の米ドル建ての実質リターンが1~3%程度だったとしても、円換算リターンではほとんどゼロかマイナスになる可能性もありそうです。


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